文部科学省によると、来年度予算案として、安住外務大臣と会談した結果、日本学生支援機構の無利子型の奨学金を貸与された学生を対象に、本人の年収が300万円以下になった場合は、返還が猶予されるという制度の新設に合意したとのことだ。
文部科学省的には、諸外国では一般的な給付型奨学金(返還不要)にしたかったらしいが、財政不足の日本では、まだそこまでの合意は得られず、とりあえず「出世払い型」とすることで落ち着いたらしい。
この年収300万円が多いと見るか、少ないと見るかで意見は分かれそうだが、よく主婦のパート勤務であるように節税対策で、年収を103万円以内に押さえるのと同じように、意図的に収入を年収300万円以下に押さえる人が出て来ないか心配だ。
というのも、まず、貸与総額を考えてみよう。
ここは、国立大学職員のブログなので、学部の学生については、少し貸与額が少なくなるが、国立大学の場合で考えてみよう。なお、大学院の場合は、国立大学や私立大学等の区別がなく同額だ。

学部生(国立大・自宅外) 月額51,000円 (4年間で2,448,000円)
大学院(修士)月額88,000円(2年間で2,112,000円)
大学院(博士)月額122,000円(3年間で4,392,000円)

と、いうことは、大学院の博士後期課程まで修了すると、合計でなんと、8,952,000円にもなる!
これは、学部時代に受けた奨学金は、大学院に進学すると「在学猶予」という制度があるため、返還することなく、貸与額を積み上げることができるからなのだ。
つまりだ、これだけでもラインを引こうとしている年収300万円の3倍近い貸与額だ。
また、学部が私立の場合や大学院が医学関係だともっと額が膨れあがることになる。
これを、貸与種別にもよるが、15年~20年の毎月の分割払いで返還することになるのだが、やはり900万円近くを返還するというのは、結構しんどい。
たとえば、300万円をちょっと超えた位の年収だと、返還の対象者になって、かえって生活が大変になる人も出てくるかもしれない。
ということは、非常勤的な職業や自営業などで、年収をコントロール出来る場合はいいが、サラリーマンとなるとそうもいかない。であれば、返還額が気にならないような年収まで一気に出世しろ、ということなのだろうか?

たしかに、「出世払い」の奨学金制度は、いままでの奨学金にくらべれば、一歩前進しているのかもしれない。
しかし、今のような就職難で、卒業後300万をちょっとでも超えたら、返済地獄が待っているというのは、モチベーション的に大丈夫なのだろうか。ちょっと疑問が残るし、返済計画的にも、いつになったら、完済できるのか見通しもつかないので、精神衛生上も良くないような気がする。

ちなみに、大学院生の場合、「特に優れた業績による返還免除者」として大学から上位で機構へ推薦されれば、「全額免除」でチャラ、というおいしい機構側の制度もあるので、在学中には研究などがんばってみるのもいいかもしれない。たとえ推薦下位でも、順位によっては「半額免除」の可能性もある。しかも、推薦されたからと言って、必ずしも免除になるとも限らないのがやっかいだ。
ただし、この推薦枠は大学ごとにわずかしか来ないので、これを期待して入学してダメだったといわれても、当ブログでは責任を持てませんのであしからず。

ところで、このニュースに埋もれてしまったが、平成24年度の国立大学法人運営費交付金が前年比161億円の減額(1.4%減)となったという。今までは、1%減内に収まっていたと思うので、この大幅な減額の方が我々職員にとって、かなり切実な問題だ・・・。